遠藤文庫

定期連載「雪の彫刻たち」第三部その2
2002.01.31

今日のBGM「Little fluffy cloud」The orb

1994年。就職2年目。昨年のYMO再結成のフィーバーぶりはどこへやら。静かな年だった。僕はといえば仕事に追われて音楽をまた忘れそうになっていた。そんなとき、キリハラから一本の電話が。

電話の内容は、新しいデモテープを作ったと。それで、そのB面のプロデュースを頼みたいということだった。僕は引き受けることにした。

キリハラが来たのは大雨の日だった。それも、下水が氾濫し、道路はまるで洪水だった。バス停まで原付で迎えに行ったものだから、帰り道は大変だった。二人ともずぶ濡れだ。確かその時キリハラは、大事な機材を川のようになった道路に落としてしまい、ビチャビチャにしてしまった。なぜか二人して笑った。

そのテープは実質キリハラのソロアルバムだった。歌詞は一切なく、いわゆるアンビエントだった。しかし、その曲たちは、詩以上に語っており、リズムアプローチも響きもいわゆる普通のアンビエントものとは一線を画していた。「すげえのつくったなあ」心の中でキリハラに対して敬意を表しつつ、作業に取り掛かった。そのテープはA面が「阿」サイド、B面が「吽」サイド(いわゆるあうん)で一つの循環構造になっているというコンセプトで作られた。B面で僕がやったことは、楽曲構造になっているA面をそっくりそのまま逆回転し、それにシンセで味付けしていくというものだった。その結果、A面はリズムのあるアンビエント、B面はスペース音が飛び交う、リズムなしのアンビエントになった。リバースデッキで聞くと、何万回でも同じ事が繰り返されるのだ。

こうして出来上がったテープは、僕たちにとってまた、音楽を楽しむきっかけとなった。そしてまた僕たちは一緒に音楽を作り始めるのだった。僕たちはこのテープがのちに重要な意味を持つとは夢にも思わなかったんだ。

・・・つづく

​ ​