遠藤文庫

定期連載「雪の彫刻たち」第二部その9
2002.01.26

今日のBGM「終りの季節」細野晴臣

4年生になっていた。1992年。この1年は、なぜかスポッと記憶から抜けている。軽音楽部の活動はあったはずだが、どんなバンドを組んだかとか全然憶えていない。キリハラも3年生になり、東京に出てきていたので一緒にバンドを組んだはずだが、どんなだったか全然憶えていない。憶えているのは、キリハラの家で、テクノやアンビエントや細野さんやはっぴいえんど、日本の音楽状況などなどについて毎日のように論じ合っていたことくらいだ。

バンドを組んだといえば、一つだけ憶えているのがYMOのコピーバンドを組んだことだ。ベース・キリハラ、キーボード・他大学のキリハラの旧友、ドラム・俺という面子だった(しかし、これも3年生のときだったか、4年生のときだったかはっきりしないのだが)。

キーボードの彼の大学の学園祭で演奏した。「Light in Darkness」「CUE」「音楽の計画」の3曲をやった。カセットの8トラックをバックに、まるっきり「ウィンターライブ」と同じ編成、楽器で行なったこのライブも、終わったあとに2人の女の子達に「YMO好きなんですか?私たちも好きなんです。」って声を掛けられたことくらいしか憶えていないのだ。

だから、あっという間に1年が過ぎた。3月。俺は就職するため盛岡に住むことになっていた。東京よさらば。この先、音楽をすること、バンドを組んだりすることや作曲をしたりすることはまずないだろうと思っていた。キリハラともお別れだ。3年間本当に楽しかったよ。思い出を胸に新幹線に乗り込んだ。窓から見える残雪が、寂しく通り過ぎていった。

このときは本当に、のちに彼と邂逅することになるとは、夢にも思わなかったんだ。

(第二部完)

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