遠藤文庫

定期連載「雪の彫刻たち」第二部その6
2002.01.21

今日のBGM「ふりむけばカエル」矢野顕子

俺たちは数合わせだった。オーディションでは優勝者は最初から決まっていたのだ。一応出るバンド数が多いほうが盛り上がるから、俺たちは選ばれたらしい。それをキリハラから聞いたのは確か当日だった。別にがっかりしなかった。だが、怒りとも空しさともなんともいい難い気持ちがこみ上げてきたのは確かだ。キリハラもそうだったろう。そんで…。

俺たちは楽しもうと思った。いや、少なくとも俺は。バンドのメンバーはギター・タハラ、ドラムス・サワモト、ベース・ボーカル・キリハラ、キーボード・俺、そして、その日特別に、AIR(すなわち空気担当)・クリタという面子だ。衣装だってばっちり決まっていた。キリハラはマイクエドワーズばりに長ティーにキャップをかぶった。ベースは相変わらずとんがりベースだ。俺も気分はスカリーズ。だぼだぼファッションにキャップをかぶり(後ろ前逆に)、いざステージへ。
 
司会者の紹介が終わるや否や(司会者は俺たちのバンド名をグレイフィルハーモニックスと言ったが正確にはグレイフィルハーモニックだ。)、俺たちは演奏を始めた。キリハラは力強く一語一語吐き捨てるように歌い、ベースを鳴らす。ドラムのサワモトはドカドカ叩きまくる。ギターのタハラは相変わらず冷静だが、にやりとするようなフレーズを弾きまくる。エアー担当のクリタはタンバリンを叩きながら踊りまくり、曲の途中、デタラメなラップをがなりたてる。そして俺は、バリーDのごとく、キーボードを前後にがたがた揺らしながら、鍵盤を叩き、踊る。

終わったあとのキリハラと司会者のやりとり。
「もうちょっとブラックって感じで来ると思ったんだけど割りとビート系な感じでしたけども。」
「ブラックは好きじゃないので。」
「えー、と言うことでライブの予定なんかあればさらりと。」
「R大学K校舎毎週水曜日お昼から練習してるんで、ローディーの方来て下さい。運びに。」
「えー、学食で飯ぐらいはおごろうかな、なんていう感じで。」
「いや、全然そんな気はないです。」
「大学では何を専攻してるのかな?」
「国文です。」
「国文っていうと古文とか。」
「いや、国文です。」
「国文と古文て違うの?」
「微妙に。」

ステージで後片付けをしていた俺はキリハラのやりとりに、思わずにんまりしていた。いやあ、痛快だった。

こうして俺たちの大宮フリークスは終わった。みんながっかりしてたかって?とんでもない!俺たちはこれをきっかけにもっと盛り上がっていくのだった。ああ。そうだった。

・・・つづく

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