遠藤文庫

定期連載「雪の彫刻たち」その8
2002.01.10

今日のBGM「Boys Don't Cry」THE CURE

「どひゃー、疲れたー。」俺はK市民会館の楽屋の床に大の字になっていた。軽音楽部学外コンサートは順調に進んでいた。今までの練習の成果を発揮しようとみんな意気込んでいた。この学外コンサートが終わると、あとは春までライブはない。みんなそれぞれが、それぞれの思いをこのコンサートにぶつけていた。3・4年生の先輩達も、他の音楽サークルの人たちも、友達も、みんな見に来ていた。俺は4つのバンドを掛け持ちしていた。その中の3つが終わり、あとはあの、キリハラのバンドを残すのみとなった。

ドラムを叩くときは、なるべく軽装でいたいので、Tシャツを着るくらいだったが、今日はキーボードだ。少しおしゃれしようと、黒のタートルネックを着ることにした。髪の毛は特にいじらなかった。そして、キーボードに一応コード譜を貼り付け、あとは出番を待つだけとなった。

練習時間は足りなかった。バンドのメンバーとの意思疎通もうまく行っているとはいえなかった。しかし、俺の気持ちは落ち着いていた。何とかなると思っていた。「今まで俺が自分で曲を作ったり、弾き語ったり、ヤンソンでコード憶えたり、YMOのコピーしたり、戦メリ弾く真似したりしたことを総動員するだけのことじゃないか!」俺はもうじたばたしなかった。平らかな気持ちだった。そして、「ふーっ」と大きく深呼吸して、楽屋を出ようとした。

「誰だ?おまえは?」そいつの顔を見たとき、俺は思わず言ってしまった。そのとき楽屋に入ってきたのはキリハラだった。髪は立っていてばらんばらん。顔は白く塗られ、口紅の赤が異様だった。茶色のひざくらいまであるセーターをだほっと着て、腰には白い布を巻いている。「もしかして、ロバート・スミス!?」キリハラはキチンとMY化粧道具を持参し、ロバートスミスに変身していた。俺は閉口したままだった。「そろそろ。」「ン…うん。」

「キリハラ…。さすがだぜ。似合ってるよ。その化粧。」そのやる気に俺はちょっと残っていた不安など吹き飛んでしまった。そして、目前に迫るキリハラとのバンドをどうしても成功させなきゃと思った。「やってやる!」俺は燃えてきた。

ステージのそでで、俺とキリハラは堅い握手をかわした。そして、ステージへ俺は出ていった。スポットライトがやけにまぶしく、熱く感じられた。

・・・つづく(引っ張りすぎ?)

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