遠藤文庫

定期連載「雪の彫刻たち」その7
2002.01.08

今日のBGM「出口なし」The Beatniks

「タカタカタカタカタカ…」ドラムのサワモトが出だしの部分の練習をしている。たまにアクセントの部分が入るちょっと難しいプレイだ。キリハラのバンドの練習が始まって結構時間が経っていた。みんな、やはりやりにくそうだ。なぜなら誰一人として確信をもってプレイしている者はいないだろうからだ。ベースはタハラが担当する。彼は本当はギタリストだ。それでも、フレーズの研究に余念がない。さすがギタリストだ。メロディアスである。俺は借りたキーボードの音決めにてこずっていた。とりあえずその当時流行っていたパッド系の音で全体の様子をみることにした。そしてキリハラは今回はギターとボーカルを担当する。特に何をするともなく、そして歌を歌うこともなく、バンドの出す音をただ聞いている。

「デモテープの1曲はとりあえずそのままやることにして、あとの部分はアドリブで。」「はー?」「とりあえず何弾いてもいいけど、アンサンブルを壊さないようにしてくれれば。」「それが一番むずかしーんだっつうの!」「いや、みんな天才だから、大丈夫だって。」「なぬっ!」「一人が出した音にもう一人がついていく感じで。」「わかった。わかった。」

最初で最後の練習はこんな感じで進んでいった。誰一人として成功したとかこれならいけるとか思わなかっただろう。俺もそうだ。とりあえず、俺のすることは、キーボードで全体の雰囲気を作り上げることだろうと考え、その当時俺が知っていたコードをフル使用することにした。メジャーセブンス、メジャーナインス、ディミニッシュ、分数コード…、もう何でもありだ。

「おつかれさまでしたー。」「おつかれー。」練習は終わった。なにもまとまらずに終わった。明日はついに学外コンサート。本番だ。「ほんとに大丈夫かよ…。」俺は不安だった。しかし、それと同時に「ま、なんとかなるさ。」とも思っていた。昔からそうだった。苦難を目の前にすると開き直ることができるのが俺の楽天家たる所以だ。

その直感は、明日、そのとおりになるのだった。

・・・つづく

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