遠藤文庫

定期連載「雪の彫刻たち」その5
2002.01.06

今日のBGM「全部あとまわし」The ピーズ

季節は秋を越え、冬が近づいていた。枯葉ももうほとんどなくなり、吹く風は強く、冷たかった。俺のほうは学園祭、秋の定期演奏会などを経て、そろそろ冬の学外演奏会に向けて、少しずつ準備を進めていた。

「キリハラ」とは、春にバンドを組み、一度だけ演奏して、それきりだった。それ以後は特に一緒にバンドを組むこともなく、それぞれがそれぞれのことをしていた。

そうこうしているうち、学外演奏会がもうすぐそこに迫ってきていた。いつものように、大学の談話室でだべっていると、「キリハラ」がやってきた。「うぃーす」「うぃーす」そろそろ練習の時間か。そう思って立ち上がろうとした。そのとき、静かに彼は切り出した。

「キーボードやってくれませんか。」「ん?俺?」「今度の学外コンサートでキーボード弾いてください。」「へ?」「俺らのバンドで弾いてほしいんです。」「俺、ドラムだぜ。」「いいんです。」

これには伏線がある。以前一度、キリハラの家に遊びに行ったとき、他にも何人かいたと思うのだが、そのとき彼のカシオトーンでセッションをした。キリハラがベースかギターだったと思う。特に盛り上がった記憶はないが、彼は何かを感じたのだろうか?

「一緒にバンド組みましょうよ。」「あ…、ああ、わかった。」俺は返事をした。なぜなら彼がすごく真剣に話していたから。というより、いつものように眉間にしわを寄せ、顔が怖かったから。それは言い過ぎとしても、これはおれにとって、願ってもないチャンスだった。自己表現するチャンス。ドラム以外で。ミュージシャンとして。そしてなにより、気になっていた「キリハラ」とバンドを組めるという事実。何かワクワクする気持ち。

こうして、俺らはバンドを組むことになった。学外コンサートまであと10日。「もう少し早く言ってくれよ。」俺は心の中で言いつつ、はやる気持ちを抑えた。風はどんどん強くなった。厳しい冬が、もうそこまで来ていた。

・・・つづく

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