遠藤文庫

定期連載「雪の彫刻たち」その4
2002.01.04

今日のBGM「イケナイコトカイ」岡村靖幸

「オリジナルだよ。やっぱり。」「いや、でも俺ドラマーだし。」「キーボード弾けるでしょ。」「いや、ピアノ習ってたっていってもバイエル程度だから。」「十分だよ。」「ま、一応明星の歌本ヤンソンでコードはわかるけど。」「十分だよ。」「でも、曲なんてまじめに作ったことないし。」「大丈夫だよ。」「でも曲作るとき、きっと俺、凝っちゃうだろうから。」「大丈夫だよ。」「できるかなあ。カシオのミニ鍵でも。」「大丈夫だよ。」「カセットのダブルデッキのピンポン録音だよ。」「大丈夫さ。」「俺、声太いよ。」「大丈夫さ。」「でも…。」「大丈夫。」「大丈夫?」「大・・丈…夫…。」

「うわっ!」俺は、飛び起きた。汗をかきまくっていた。時計を見ると、もう午後1時をまわっていた。ものすごい熱気にうなされたようだ。4畳の室内の気温はもうとっくに30度を超えていた。俺のアパートのある埼玉のK市は、真夏は40度を越えることはそう珍しいことじゃない。「しかし、変な夢だったな。誰と俺話してたんだろう?」そうつぶやくと俺は、風呂に水をため、水風呂に入った。

アパートの屋上に登って、水風呂で冷えた体を風に当てた。夕方、すごく気持ちいい。手すりによっかかって、暮れていく町並みを眺めながら、さっき見た夢のことを思い出していた。「ドラムも好きだけれど、曲作りはもっと好きだったな。」そうつぶやいて、俺は部屋へと戻った。

8月。うだるような暑さの中で、俺は何かに気づきそうで、でもそれが何なのかはわかっていなかった。でも少しずつ、それは俺に近づいていた。

・・・つづく(今日もキリハラの出番なし)

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