遠藤文庫

定期連載「雪の彫刻たち」その2
2002.01.02

今日のBGM「Message in a bottle」the Police

「さあ、練習でもいくべかな。」俺は、軽音楽部の部室でひとしきり仲間とだべったあと、重い腰を上げた。今日はあの「キリハラ」とのはじめてのセッションの日だった。ドラマーの俺はそれこそ多種多様なバンドを掛け持ちしていた。パンクもやれば、ロケンローもやる。戸川純だってだ。「キリハラ」と組んだそのバンドも、そんななかの一つくらいの気持ちだった。ただ、彼はベーシストだったから、少し期待していた。

練習場でドラムをセッティングしていると「ちわーす」という声が聞こえた。キリハラだ。あいかわらず、目が悪いのか、眉間にしわを寄せている。「うぃーす」顔をチラッとだけ見て、俺はドラムのセッティングを続けた。セッティングも終わり、ドラムのいすに腰掛けたとき、ふとキリハラのほうに目をやると、彼はベースのセッティングをしていた。そして、おもむろにケースから出したキリハラのベースを見たとき、俺は息を飲んだ。「なんだあれ…」

そのボディは白く、台形をしていた。ネックは細く、ヘッドの部分がない。よく言えば、スタインバーガーによく似ていた。確か、YAMAHAのだった。その当時はフェンダーのプレシジョンかその形が一般的だったはずだ。


「どうしてそれ買ったの?」「いや、目立つかなと思って」ああ、目立ってるよ。十分にな。心の中で俺はつぶやいた。そして、「こいつは一味違う。」と思い始めていた。

「Message in a bottle…」サビの部分、「ポリスのドラムは結構細かいことやってんなー」と思いつつ、セッションは続く。キリハラはもくもくとフレーズを弾く。あのとんがりベースで。「結構いいじゃん。」セッションは続いた。外はもう真っ暗だった。夏の匂いがすこしづつ漂いはじめていた。
           
・・・つづく

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