遠藤文庫

定期連載「雪の彫刻たち」その1
2002.01.01

俺はある大学のただっ広い中庭にいた。4月。まだ外は寒い。俺たちのサークルは昨年の新入生の少なさを何とか挽回するため、新入生勧誘に躍起になっていた。「結構さみーな。」木いすに座り、机を前にし、中庭を歩く新入生達の人並みを眺めつつ、俺はボソッとつぶやいた。


そのとき、近づいてくる影に俺は気がついた。結構でかい。髪の毛は真ん中分け、黒のタートルネックに、ネイビーブルーのジャケットを着ていた。目が悪いのか、ずっと眉間にしわを寄せている。そいつはおもむろに机の前に座り、用意していたノートに名前を書き込んだ。そいつの名は「キリハラ」といった。

 

「どんな音楽が好きなの?」「キュアーとか」「んー。そう。」交わした言葉はそれだけだった。でも俺は、ずっと以前から彼を知っているような気がしていた。そのとき俺は、黒のタートルネックに、オレンジ色のジャケットを着ていたから。「同じセンスのやつがいる!」俺は少しにんまりした。外の寒さも少しだけ忘れた。

 

・・・つづく(この物語の大半はフィクションです)

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