折原文庫

東京クールスファイブ物語(第17回)
2002.02.12

第十七回~銀蠅でコミュニケーション~

その神社は山の裾野からちょっと上にあがったところにあった。ならぶ鳥居をくぐって上へと足をすすめる。あたりは田舎の夜らしく真っ暗で、坂になった参道の脇に点々と置かれたライトだけがぼんやり明るい。

神社の社務所のトビラを明けると、思いもかけず、そこにはテーブルがならび、ごちそうが用意されていた。ややや、これが「マヨヒガ」というやつか!などと思うもそうではない。そう、今日の打ち上げは「軽く」ではない。大々的に催されるのであった!!

そんなこんなで打ち上げスタート。結局地元の実行委員関係の若者が勢ぞろいし、総勢40名ほどになった。まずは実行委員長の挨拶とカンパイ。地元の若者たちもこの町に住んでいる者や周辺の者、この町に働きに来ている者などいろんな人がいて、全員が知り合いというわけでもないらしく、続いて自己紹介が始まった。

「今日のパーティーでは照明を担当してました○○です。」とか「今日は会場手配をしました○○です。」などみんなの紹介があり、ついに我々の番が回ってきた。とりあえずみんなそれぞれ軽い笑いも狙いつつ上手い具合に切り抜けた。リーダーの自己紹介では「笑っていいとも」出演に関しての質問があがり、それで地元のみんなとオレらの距離が近くなった。さらにサトーさんはここでもバリバリコールで場を盛り上げた。

自己紹介が終わると、くだけた飲み会に突入した。人見知りの集団でもある東京クールスファイブはなるべく目立たないようにチビチビ呑んでいたが、ビールが日本酒に変わったころには地元民との交流が大々的に始まっていた。

ところで飲み会が始まってからオレの脇に座った2人組は、全く静かに飲んでいたのであるが、どっから見ても明らかに地元の恐いヤンキーの方々であったため、オレはなにげに関わらないよう過ごしていた。だって二人ともパンチパーマで、そのうち一人は迷彩服を着込んでいるのだ。話が合うはずがないではないか!

ところが、酒も回りはじめ、オレも心が大きくなっていたのだろう。隣の二人にビールをついでみた。すると思いがけず、こわもてのヤンキー二人組は「あ、すいません。」と言ったのだ。おおっ!これは意外。しかし話し掛けるにも話題がないので、再び他の人たちとの会話に戻ろうとしたところ、迷彩服が

「あの、今日の銀蠅うれしかったっス。」

と言ったのだ!そうか!その話題があったか!

「あ、本当ですか?そう言ってもらえるとこっちこそ嬉しいですよ」

そう答えると、もう一人が、

「やっぱオレらの世代って言えば銀蠅っすから。始まったときやられた!と思いましたよ」

おおーっ!音楽には様々な壁を越える力があるのだ、というのを身をもって知る。ああ何と素晴らしいことか。この日の飲み会でいろいろな人が「バンドよかった」と言ってくれたが、オレには彼らのこの言葉が最も印象に残っている。

そして宴会はまだ終わらない。

(つづく)

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