折原文庫

東京クールスファイブ物語(第14回)
2002.01.22

第十四回~伝説のバンド、オンステージ!! その4~

「レモンティー!」

Pさんが前方のマイクに移動してシャウトすると、遠藤さんがドラムを叩きはじめる。銀蠅からのロックな流れはバッチリだ。と、思ったらいきなりリーダーがフライングしてギターをひきはじめた。ほかのみんなはこんらんしている!のぶあきはママが恋しくなった!しかしみんなさすが音楽家だ。なんとかごまかして合わせた。

練習の時からトバしまくっていたこの曲は、本番でさらにその体感速度を上げた。ノッコ番長が歌う。バリバリウルフがギターをかき鳴らす。銀蠅ジョニーがソロを狂ったように弾きまくる。なぎらドラムは音がでかい。オレも何かにとり憑かれたかのようにベースをブリブリいわせた。言い知れぬ高揚感をバンドも聴衆も共有していた。虹色の明かりが宙を飛び交いながら、ゆがんでは形を変えてゆく。空にダイヤモンドとルーシーが見え、オレは薄れ行く意識と視界のなかでつぶやいた。

「あーたのしいなー」

ぐるぐる回る赤や緑の光のつぶは、いつしか大きく真っ白な光の渦と変わってゆく。遠くで深い声が響いた。

オレ「ああ、てがかってにうごくよー、なんかりずむがずれてるようなー」
神様「しんぱいするでない」
オレ「あーでもーちゃんとあわせないとー」
神様「おまえのこころのままでよいのだよ」
オレ「あーそうかーこれがろっくなのかー」

自動書記のようにプレイされるレモンティーの洪水の中で、オレはそんな白昼夢を見た気がした(ウソ)。とにかくそれぐらいの勢いでまくしたてた演奏は一気に終盤を迎えた。曲が短く感じられた。オレは昨日の晩から練習していたエンディングのフレーズもなんとか上手くできた。というか多分できていなかったが、もうそんなことは気にしないぐらいになっていた。熱狂する聴衆。顔を見合わせて歓びを確認するメンバーたち。完全だった。(演奏は不完全だった) そしてリーダーがマイクに向かう。

「最後の曲です」
「えー!!!!!!!!」

サトーさんがキーボードに戻る。最後の曲はクールダウンして、しっかり楽しんでいこう。リーダーが裏のリズムでギターを鳴らし、歌いはじめる。曲は「STAND BY ME」だ。ドラムのオカズでみんなが入る。

「ダーリン!ダーリン!ステーン!バイミー!」

会場に目をやると知っている人たちが一緒に歌っていた。オレたちは落ち着いた演奏に徹していた。エンディングの長いリフレインを終えるのは遠藤さんのドラムのきっかけだ。メンバーのアイコンタクトで曲はとてもいい感じ終了した。

「どうも!」

大きな拍手がおこった。ライブが終了した。さめやらぬ興奮の中でオレは振り返りベースを肩からおろした。メンバー全員が満足していた。それぞれが楽器から離れようとしたその時、鳴り響いていた拍手は一つのリズムに変化していった。誰からともなく声があがる。波が大きくなる。

アンコール!
アンコール!
アンコール!

(つづく)

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