折原文庫

東京クールスファイブ物語(第13回)
2002.01.20

第十三回~伝説のバンド、オンステージ!! その3~

熱気を帯びた会場と、心地良いざわめき。リーダーがマイクに向かって「次はウチのバリバリウルフが歌います」と言った。普通に聞いて意味不明なはずなのに、会場はもりあがった。すばやく銀蠅サングラスやヒゲシールを装着するメンバーたち。サトーさんがギターを肩にかけて、リーダーの立ち位置に移動し、マイクに向かう。

ウルフ「バリバリ?」
会場 「バリバリー!!!!!!」

断っておくが、オレはこの連載において多少誇張しているところがあったり記憶間違いがあるかもしれないが、ウソは書いていない。ナイス・ミュージックのファーストアルバムの裏ジャケでシャイに笑う佐藤清喜その人を知る者は「サトーさんがこんなことするはずないじゃないですか!」とボクに言うかも知れません。ですが、これは本当にあったことです。

バリバリウルフの投げかけに何の違和感もなく答える会場。メンバー大ウケ。

ウルフ「バリバリー?」
会場 「バリバリー!!!!!!!!!!!!」

さらに声を張り上げて客を煽るウルフ。なぎらドラムのカウントが切り込む。「羯徒毘路薫'狼琉」の始まりだ。特徴ある掛け合いがゴキゲンなナンバー。

この曲のベースラインは、いわゆるロックンロールのラインなのだが、オレもやり慣れていないもんだから結構必死に弾いた。しかもベースに集中していて肝心の掛け合いコーラスを忘れて、「しまった!」と思った時はやけにマイクから離れていたのでどうすることもできず、マイクの方向を見たらリーダーが「コラース!コーラス!」という目でこっちを見ていたので、急いで参加した。それ以外は上手くいって、まるでよくあるロックバンドのように、リーダーと一本のマイクでコーラスをしてみたりした。やや恥ずかしかった。

続いて今度は「ツッパリHigh School Rock'n Roll(登校編)」だ。「きょーおもげんきに」のところではみんなでギターを左や右にふった。もうこの辺ではエキサイトしてきているので全然みんな合っていなかった。サトーさんは練習と同じく間奏のセリフ部分で意味不明な「じっちゃん、ばっちゃーん!」というシャウトをし、リーダーはギターソロをつっかえた。

どう考えても会場とメンバ-の盛りが上昇するのに反比例して、演奏力が低下しっていった銀蠅コーナーだったが、まさに「気合一発」でプレイしきった。会場にもオレらにも歓びがあった。この頃には我々は普段とは全く別のミュージシャンに変わっていて、明らかにそこにはロックンロールバンド「東京クールスファイブ」があった。オレたちは東京クールスファイブだった。

ロックはまだ終わらない。さあさあ、次はウチの紅一点が歌うよ!

(つづく)

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