折原文庫

東京クールスファイブ物語(第12回)
2002.01.19

第十二回~伝説のバンド、オンステージ!! その2~

街灯も少なく星空の美しい12月の夜。此処、長野の田舎町の町民体育館では、今、練習の時より若干早いテンポの「プリーズ・テル・ミー・ナウ」が演奏されていた。

リーダーのボーカルにPさんのコーラスが絡む。ところでリーダーはおそらくこの英詞をリハの時から90%なんとなーく歌っている(と思う)。なんとなーくのリードボーカルに対して何故Pさんがハモれるのかはわからない。

「プリーズ・テル・ミー・ナウ」の演奏が終わると会場がどっと湧いた。オレの視界の端で、となりのサトーさんがキーボードの音色を切り替えるのが見えた。打ち合わせ通り次の曲が始まる。

2曲目は「TAKE ON ME」だ。サビのコーラスには今度はオレとサトーさんも加わった。早い8ビートのこの曲では普段ものすごくデカい音の遠藤ドラムも、やけに小さかった。また、この曲には間奏で6連かなんかのものすごい難しいシンセのフレーズがある。このフレーズがリハで上手く弾けないと言っていたサトーさんが本番をどう乗り切ったかはオレは知らない。

オレの記憶では、ここらへんまでは会場もオレらも、まだ様子見の段階だったと思う。変化は次の曲で起きた。遠藤さんがカウントする。始まったのは「ヤングマン」だ。

今までの80年代の洋楽より、どうやらこっちの方が食い付きがいいらしい。さっきのディスコ大会の名残もあってか会場のノリが大きくなり、Pさんがサビで「Y・M・C・A」のポーズをとると、会場全体が真似をした。お馴染みの掛け合い部分が来ると、バンド全員で盛り上げた。

「あ、Y!」「Y!」
「あ、M!」「M!」
「あ、C!」「C!」
「あ、A!」「A!」
「あ、1・2・3・4!!!!」

思いがけぬ会場の盛り上がりと一体感に、心の中で若干タジロギつつも異文化コミュニケーションの成功をダイレクトに感じるオレら。例えるならば、どっかの国の先住民に会いに行って出されたイモムシの丸焼きを、涙ながらに飲み込んだあとで、大歓迎で迎えられたような複雑なすがすがしさ。このまま盛り上がっていこうぜ兄弟!さあそろそろ曲の締めだ。なんでもでーきるのーさー

「ヤングマン!」

曲の終わりとともに沸き上がる大歓声。ふり返ってメンバーが顔を見合わせる。

みんな笑っていた。

(つづく)

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