折原文庫

東京クールスファイブ物語(第10回)
2002.01.07

第十回~伝説のDJ~

さーて、ゲームでヒヤ汗をかいた後は体育館でディスコ大会に突入だ!時期外れのユーロビートがガンガンにかかりまくる中で思い思いのダンスに興じる若者たち。我々も一時代前の選曲に苦笑いしながらも、ユーロビートでチークダンスを男同士で踊ったりして、それなりに楽しんだ。

しばらくするとディスコ大会は日頃鬱屈した地元パワーの反動によってものすごく盛り上がって参りました。まさに熱気ムンムンみぞおちワクワクである。

と、ここで思いがけないパフォーマンスが飛び出した。DJをしていた若者がおもむろにマイクを手にすると、懐かしのジュリアナトーキョーのジョン・ロビンソンばりにシャウトしだしたのだ!

「ダンシン!ダンシン!」
「フィーバー!フィーバー!」
「ミュージック!ミュージック!」

地元の人々はなんの違和感もなく熱狂している。しかし、あげ足取りの名人が集う我が東京クールスファイブのメンバーは聞き逃さなかった。まずサトーさんが言った。

「他のはともかくとしてミュージック!ミュージック!っておかしくない?」

いや、おかしいおかしい。直訳すると音楽!音楽!
なんとなくつい口走ってしまった感のあるこの言葉にウケるオレら。しかし気になるので彼のシャウトをよく聞いてみると全てがこの調子だということに気付いた。つまり全てが英単語を基本にしたなんとなーくの言葉なのだ。しかも必ず二回続けてそれを叫ぶ。

ノリノリで踊る人々をしり目に、我々は彼の叫ぶレッツゴー!レッツゴー!や、ハッピィ!ハッピィ!などに腹がよじれるほど笑い、いったい次はどんな台詞が飛び出すかを、まるでクリスマスプレゼントを待つ子供のような清らかな心で待ち望んでいた。我々は別の意味でディスコ大会を楽しんだ。

しばらく後になるが、オレたちは彼の事を知った。彼の名は「DJクンちゃん」。普段は大人しい印象うすい青年であった。

しかし、今となっては、そんな彼の偉業を讃える者も、いや、彼のことすら知る者すらこの2002年にはほとんど残されていない。しかし、彼の足跡は5人の音楽家たちによって口承で伝えられ、今鮮やかによみがえることとなった。ただ、残念なのは「DJクンちゃん」でネット検索してこのテキストを読む人はおそらく誰一人としていないだろうことだ。

みんな、寒い夜には彼のことを思い出して。

(つづく)

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