折原文庫

東京クールスファイブ物語(第7回)
2001.12.30

第七回~なぎら騒動の巻~

リハまでの間、我々は町民センターの中をほっつき歩いたり、外を見て回ったり、楽器の用意をしたりして過ごした。佐藤さんがブロンソンのヒゲシールを持ってきていたので、みんなでヒゲを試してみた。と、ここで突然誰かの叫び声が控室にこだました!

「な、なぎらだ!!」

我々が注目した先には、まぎれもなく、どこから見ても「なぎら健壱」その人がいたのである。厳密に言うとそれは「なぎら」ではない。「なぎら」によく似た人だ。もっと言えば、そこにいたのは、銀蠅チックな黒いキャップをかぶりタレサンをかけてブロンソンヒゲをつけた、「なぎら健壱」にそっくりな遠藤裕文28歳(当時)がいたのである!!

控室は一瞬にして笑いの渦と化した。誰もがハラをかかえて笑い、遠藤さんのその姿に涙した。ただ、本人だけはショックを受けていたようだ。それはそうだろう。いままでホリの深いガイコクジン顔で、シャーラタンズのボーカルに似てると言われることはあっても、「なぎら」に似てると言われたことなど一度もなかったはずだ。これ以後、我々の中では遠藤さんと言えば「なぎら似」が定着したことをここに記す。

さて、そんなこんなで準備をすすめていると、実行委員会のところに挨拶をしに行ったリーダーが困り顔かえって来た。

「あのさー、なんか知らないけど、今日こっちじゃあ『スパイラルを解散した石田小吉が新バンドを引き連れてやってくる』って話になってるみたいなんだけど(笑)」

一同笑うも、リーダー以外の面々は内心ヒヤ汗タラーリ。じ、地元民は勘違いしている…。それはスクーデリアのことか?ちがう、ちがう、ちがーう!オレらは80年代ポップスと横浜銀蠅をやるバンドなんだよ!そんな期待しないでくれよ!と思いつつも今さら別なバンドになれるわけでもなく、どうしようもないので、最終的には気にしないことにした。

実行委員のひとがリハをやれると知らせに来た。時間はあまりないが、まあ音チェック程度だ。一同それぞれの楽器を手に、体育館へと向かう。そう、体育館が今日のクリスマスパーティーの会場なのだ。バンド演奏はステージではない。フロアのはじにセットが組まれていて、お客さんと同じ目線でのライブだ。体育館でライブなど高校生以来だ。広いフロアのはじには実行委員のひとや関係者が飾り付けや食事の支度など、パーティーの用意をすすめている。オレたちもだんだん盛り上がってきた。

セッティングが終わり、さて音チェックだ。リーダーが「何の曲やる?」と後ろを振り返った。実はこの時点で今日やる曲をどれにするか決まっていない。じゃあまあ腕ならしということで、この曲から。遠藤さんがカウントすると、前奏のない曲が始まった。遠藤さんのドラムとリーダーのボーカルとPさんのコーラスだけで始まる曲だ。

「PLEASE PLEASE TELL ME NOW! PLEASE PLEASE TELL ME NOW!」

そのメロディーがまだ人もまばらな冬の体育館に鳴り響いた。

(つづく)

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