折原文庫

東京クールスファイブ物語(第6回)
2001.12.19

第六回~ロックンロール・ワゴンから飛び出せ!~

木枯らしを切り裂いてすすむ我らのロックンロールワゴンは、着々と目的地に近づいていた。中途半端な市街地をぬけて郊外へ出る。そして森をぬければまた市街地に出るといったような、なめらかなループを数回くり返すと、西日には若干早い日差しの中に、突如として目的地があらわれた。

近づいて行くと、前方に見えるその巨大な建物は、いわゆる「町民センター」的なものであろうことがわかった。車はじきに町民センターの敷地内に進み、東京を出て数時間ぶりの休息を得た。エンジンを止め、ドアを開けると、12月も押し迫った山里の澄んだ空気が車中に流れ込んできた。全員が車を降り、すっかり身を伸ばし終わるが早いか、リーダーの飛び出せ釣り仲間でもある、今回のクリスマスパーティーの実行委員の方が現れた。

簡単に挨拶をすまし、車から楽器などの荷物を出し終えると、リーダーが遠藤さんに
「指さし確認した?」
と聞いたので、みんな笑った。

いままでの文中には一度も登場してこなかったが、東京からの道すがらで激しく交わされていた冗談のひとつに、『遠藤さん確認した?』というのがあった。これはリーダーが遠藤さんと車の運転を代わった際に「いまウインカー出した?」とか「後方確認した?」とか細かく指摘したことに始まる。これが極端になり、「遠藤さんご飯たべた?」とか、「遠藤さんオレのギターの弦はっといてくれた?」といったように、何でも確認するという冗談になったのである。

そんな相変わらずの冗談もいいながら、我々は控え室に通されることになった。町民センターの内部は思っていた以上に新しくて広く、天井が高かった。控え室はおそらく普段は会議室として利用されているようで、「ロ」の形に机と椅子が配置されていた。

リハーサルまではもう少し時間があった。

(つづく)

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