折原文庫

東京クールスファイブ物語(第3回)
2001.10.26

第三回~名前はまだ無い~

我らがバンドの初めての練習日がやってきた。課題曲のテープはすでにオレがみんなに発送しておいたので、あとはあわせるだけだ。

夜にまぎれてスタジオに集合する面々。時間はたっぷり4時間とってある。遠藤さんも仙台から到着した。スタジオに入って楽器をセッティングする間ふと石田さんを見るとギターがなんとモズライトのミニギターだ。

「一応言っとくけど俺、本番もこれでいくから。たぶん。」

その予告は現実のものとなるのだが、その話はまた追って。
さて、オレたちと言えばそのモズライトを見た瞬間に「クリスマスパーティー」というものがどういうものであったかを思い出した。オレらの役目はそのパーティーを盛り上げる事だ。基本的に楽しいパーティーにそっと花を添える。いわばサラリーマンの宴会で、ネクタイを頭に巻いてビール瓶をマイク代わりにモー娘を歌う係長のようなものだ。

まあそんなことは置いておいて、早速音だしをしてみたところ、大変な事に気がついた。なんとみんなが覚えてきたキーが違うのだ。よくよく考えてみたら、オレのダブルデッキは相当旧型だ。しかも滅多にテープtoテープのコピーなんぞしたことがなく、コピーモードが2倍速という何ともあやしいモードしか選択できないこともその時知ったのだ。そうか!回転数がおかしかったのか!とがっくりするもそこはさすがミュージシャン達。なんなくキーチェンジに対応(キーボードの人はキートランスポーズというボタンを押した)。次々課題曲をこなしてゆき、あっという間にその日の練習は終了した。難しいのはやはり銀蠅の「かっとびロックンロール」のかけ合い部分だろう。個人練習にはげむほかない。

そして練習2回目にして本番前日。しかもこの日が最後のリハーサルだ。前回でだいたい演奏はまとまっている(ような気がする)ので、この日の練習はなんとなーく思いついた曲を演奏するなどしていた。銀蠅を至福の表情で演奏するオレらを、石田さんのファンとおぼしきバンド少年たちが不思議そうな顔をしてのぞいていた。レベッカの「フレンズ」はあんまりやっててテンションがあがらなかったので、セットリストからはずした。といってもセットリストなど無い。気分次第で演奏するまでだからだ。そして追加になったのはPさんボーカルの「レモンティー」だ。これは「フレンズ」の20倍はテンションが上がるし、演奏が終わった後になんかすっきりする。このバンドの持ち味はおそらくこの「すっきりする(オレらが)」感じにあるに違いない。

ところでオレは「レモンティー」のエンディングがこの時まだ覚えられずにいた。この曲の終わりはベースがキモなのだ。本番は明日なのであせる。練習も終わり、家に帰ったオレはしまってあったスネークマンショーをひっぱり出してきて、朝方までレモンティーを聞いていた。あまくてすっぱかった。

(つづく)

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