折原文庫

或る日、自宅にて。
2004.03.02

ウチには郵便受けが2つある。一つは階段前のいわゆるポストコーナー(各部屋の郵便受けが並んでいるところ)と、そしてもうひとつは部屋のドアについているものだ。

階段前のところはなんでもかんでも放り込まれるので、頻繁にチェックしているのだが、ドアに備え付けの方は全くしていなかった。というか付いていることさえ忘れていて、先日ふと気づいてあわてて引越し以来初めて開けてみた。

心配するほど入っていなかった。寿司屋のチラシと不動産関連のチラシが数枚、まあこんなもんかと思ったところ、おや?封筒が2つ出て来た。

そのうちひとつを手にとると、表書きに「お詫び」と書いてある。

「お詫び」ということは、何かオレは失礼なことをされたということだな、なんという失礼なヤツだ、けしからん!と、まったく失礼が何かわからず、しかも身に覚えがなくても怒りがこみあげてくるというのは大変不思議なことである。

早速中を読むと、「先日部屋を間違えて手紙を入れてしまいました、申し訳ございません。」と書いてある。なーんだそんな事か、と一気に興味が失せたが、いや、待てよ、間違えた手紙とはどんなものであろうかと思い、もうひとつの封筒をおそるおそる開けてみる。

「幹部会のお知らせ」

そんなチラシと、手書きの挨拶分、そして地図が入っていた。オレは挨拶分からいくつかの情報を得る事ができた。

1:この手紙を書いたひとは、手紙を受け取るべき人と面識が無い。
2:しかし何故か知り合いで、幹部会に誘っている。
3:どんな会合であるかの情報は一切記されていない。
4:しかし手紙を受け取るべき人は、書かなくても内容はわかる。
5:オレの住んでいるあたりには「チーム」がいくつかあるらしい。
6:手紙をやりとりするはずだった二人は同じ「チーム」に所属することになる。

さあこれからオレの名推理が始まった!

この手紙はいったい何なのか!この平和な街に蠢(うごめく)く闇の秘密結社のしっぽを思わずつかんでしまったのか!? それともマスクなどをつけてロウソクを灯しながら怪しい呪文をとなえる宗教集団の暗号分なのか!? とすればオレはこの手紙を手にした事によって、全く予期しないトラブルに巻き込まれたりしてしまうのか!? 洋服箪笥に隠れたら別の国にいっちゃったりもするのか!? それともすでに部屋には盗聴器が設置されていたりするんではないのか!? 拉致とかもありうるのか!? いかん!すぐ逃げなくては!というかこれをネットで公開しちゃうのはマズいんではないのか!? 

ここまで約1分。と、フル回転するオレの頭脳をストップさせるがごとく携帯電話が鳴った。

「あ、オリ?近くまで来てるんだけど寄っていい?」

サトーさんからだった。どうぞどうぞと言って3分後にサトーさんがやって来た。オレはさっそく問題の手紙についてサトーさんに意見を伺った。

「なんかの宗教でしょ。ここら結構多いしね。」

「いや、もっとでかいヤマなんじゃないっすかね?」

キモチはすでに刑事(デカ)である。しかしサスガはミスタークールガイの佐藤デカ長である。幹部会のお知らせを取りあげると、日時の下に印刷されている部分を指差してこう言った。

「秘密結社が幹部会のお知らせにかわいいクマちゃん印刷するかよ。」 

「………。そ、そうっスよね。」

春は近い。

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