遠藤文庫

定期連載「雪の彫刻たち」第二部その3
2002.01.16

今日のBGM「Starting Over」John Lennon

3月になった。まだまだ寒い日が続くが、確実に春の足音が聞こえはじめていた。そして、スノーモービルズ(旧型)の初ライブがついに行なわれる。K市のすごく小さいライブハウスで、俺たちは出番を待っていた。今日も俺はキーボードを後輩に借りた。キリハラはギターを担当する。そして…。

本番、ミキサーの人に、「これをバックトラックとして流してください。」とカセットテープを渡した。カラオケをバックに、キリハラギター、俺キーボードでのライブだ。二人ともステージに並んで立つ。「ドンドンターンツカドタドンタン」リズムが鳴り始めた。俺とキリハラとの共作、「SNOWFALLS FOEREVER」だ。カラオケにあわせてライブをするなんて、きっと軽音楽部始まって以来のことだろう。客は皆一様にきょとんとしていた。「あ、客が引いてる。やべえ。」俺は思った。隣を見るとキリハラは直立不動でギターを抱えたままだった。俺だって同様だ。今までドラムしか叩いたことないんだ。ステージのいつもうしろのほうで、目立たないまま、もくもくと叩いていたんだ。「いいや!踊っちめー!」俺は、とっさに踊り始めた。ひざを前後に振りはじめた。ジーザスジョーンズのバリーDのように。それを見たキリハラは一瞬ギクッとしたが、何かを悟ったように、俺と一緒に踊り始めた。マイクエドワーズか?というかひざを前後に揺らし始めた。あとは楽しく歌い、ハモリ、演奏した。

完全燃焼だった。あとで、先輩に感想を聞いてみた。「Fの曲に似てたけどいい曲ね。あれ。」ありがとう先輩。二人して俺らは喜びを実感した。こうしてある程度の手ごたえを感じつつ、スノーモービルズ(旧型)の初ライブは終わった。また俺らはがっちりと握手した。

帰り際、ある後輩が「バンドーさん、変わったね。」といやみたらしく言った。「人間はなあ、変わっていくもんなんだよ。何かを成し遂げるためにはな。」俺は諭すように言い、その場を去った。風は確実に春のそれだった。

・・・つづく

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