花に風

愛はもう死んだんだ 血を流して
部屋の隅に饐えて転がってた
幻想は燃え去った 糞尿にまみれ
雑踏の中で灰になって消えた

悪い夢 夢をみて 暁に心は決まる

荒れた野に咲く花に風 すべきをして
晴れたそら吹く風に月 なせるをなせ
さあ

得れば失って無くせば得る
歳くった分だけ命は減るのさ
外套と山高帽 荷物はすこし
鳥も家もみな売り払ったら

万感のあの旅路
そしてもう戻ることはない

暮れたあかねの月に雪 すべきことを
冷えたあさひも雪に花 なせることを
さあ

はぜる枝の語るもの
ゆらぐ炎に浮かんで消える
夜の終わり告げる音
海鳴りのように胸をえぐるのだ

荒れた野に咲く花に風 額に汗
晴れたそら吹く風に月 時折り雨
暮れたあかねの月に雪 すべきをして
冷えたあさひも雪に花 なせるをなせ
いま

風雷紀行

七夕を過ぎしころ 山の古里
ゆかし路次に書き留む 奇しきしるし

にわかに陽は陰りて 風はげしく
野はせわしく波立ち 雷鳴ちかし

通り雨 若葉雨 逃げ行くはつばくらめ
草の寺に軒を借り ふりさけ見れば
風神雷神

ほどなく空晴れ渡り 峰まぶしく
田に水はみなぎりて 夏は戻りぬ

通り雨 若葉雨 降り残す花あやめ
しばしやすみうち眺む 夢まぼろしや
風神雷神

 ぬれ衣 南風に吹かれて 握りめし
 降りやみて 観音堂に 蝉しぐれ

七夕を過ぎしころ 山の古里
行く手に思い定むれば また旅立ちぬ

通り雨 若葉雨 雲の影 足まかせ
去りし寺の気に掛かり 返り見やれば
風神雷神

十六夜

陽は沈みかけて 虫の声が増す
家々の灯り 散歩がてらひとり

月がのぼる 作業場の屋根に
月がひかる 古い校舎に

朱いコスモス匂い 藍い帳せまり
白い宵の女神 風は秋の気配
月がのぼる 牛小屋の窓に
月がひかる ダムの湖底に

月がのぼる 作業場の屋根に
月がひかる 農協のスタンドに
月がのぼる 牛小屋の窓に
月がひかる ただ悲しく

冬の明け空

しおさい遠鳴る東雲の下に
並び建ったビニル屋根が
絵の具で滲んでく

陽を待ち惚けるいちめんの菜花
冴え渡って白む尾根が
始まりを告げる

冬の童話 芽吹く桜
夜はもう消え去ってく

明け空に 三日月が釣り針のようだ
高らかに 如月は燃えて風になる

ポピー摘む海辺で椰子の影はゆれ
凍え切った港に今日は 朝市が並ぶ

ほころぶ梅 かがやく浜
春をもう先取ってる

明け空に 金星が宝石のようだ
鮮やかに 如月は燃えて風になる

荘厳な調べ 灯台が奏で
往にし方はいま 新しく染まってく

明け空に 三日月が釣り針のようだ
明け空に 金星は宝石のようだ
密やかに 枇杷の実が膨らんでいく
高らかに 如月は燃えて
燃えて風になる